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アメリカ留学記④「はじまりはソフトボール」


はじまりはソフトボール】


ニューポートに来たばかりのころ、ハルの家に居候しながら、特にやることもなく、ただブラブラとしていた。とりたてて行きたいわけでもないのに図書館に行ったり、街中をあてもなく散歩したりして時間をつぶすしかなかった。そんな退屈でしようがない1週間ほどが過ぎたころ、ハルの弟の(後に生涯の親友となるわけだけれど)デニスが気のない顔で「ソフトボール行くけど、もし、やりたかったら、一緒に行く?」と聞いてきた。ソフトボール? やりたい、やりたい。元野球少年だし。ひまを持て余していたぼくはデニスに連れられて、近くの公園にでかけた。


そこには既にデニスの友人たちが男女合わせて20人くらいが、クーラーボックスから取り出したビールやコーラを飲みながら、ソフトボールに興じていた。途中から参加だったので、とりあえず、ぼくはグローブを渡され、センターとレフトの間の守りにつかされた。センターには、少しだけぽっちゃりした、とびっきりの可愛い女の子がいる。


アメリカはソフトボールがとても盛んで、週末になれば、どんな街に行っても公園でソフトボールを楽しむ人々の姿を見ることができる。ピッチャーは山なりにボールを投げるのがルールなので、老若男女だれしもが楽しめるスポーツなのだ。ここニューポートのデニスの友人たちも、夏の間の日曜日はビールを飲みながら公園でソフトボールをするのが習慣になっていた。


ぼくがゲームに加わってすぐのことだった。大きな強いライナー性のあたりがレフトとぼくの間を抜けようとしていた。ぼくは走ってジャンプしながらボールをキャッチした。どよめきが起こった。ウォー!! 同じチームの者たちは嬌声をあげ、アウトになったバッターは本気で「なんだよ!あのあたりが捕られるなんてありえないだろ!!」とバットをたたきつけている。センターの女の子は「グレーーイト!」と、ぼくに向かって親指をたてた。それがジニーとの初めての出会いだった。後にぼくは彼女に恋をして、つきあって、ふられるのだが。それはさておき、今度はぼくに打順がまわってきた。カキーン!大きく弾んだ打球はレフトの頭上を越えていった。

ぼくはヒーローだった。そこにいた者たちが興奮気味にぼくに声をかけてくる。「ハルのうちに住んでいるのか?」「どこから来たの?」「なんでニューポートに来たの?」。ぼくはまるで小学校の転校生で、彼らは物珍しげに転校生を囲む生徒たちのようであった。


その日を境に、ぼくは彼らに、そしてこの街に一挙に溶け込んでゆく。この日、ファインプレーや大きなヒットがなければ、そのあとの日々がずいぶん違っていただろうと今も思う。この日のソフトボールが、アメリカ人がぼくを知り、認めてくれるきっかけを作ってくれた。ぼくのアメリカでの第1歩はソフトボールのおかげで始まった。